「飯坂のうた」記念碑

 松尾芭蕉が「奥の細道」で飯坂を訪れてから、約300年がたちます。文化遺産を現代に表すのを目的として、2000年の元日から6月末日まで飯坂温泉旅館協同組合主催「第8回特別企画 あなたがつくる 飯坂のうた」が行われました。

 応募総数は、短歌が672作、俳句が814作、川柳が807作です。波汐國芳先生、藤村多加夫先生、佐藤良子先生に、最優秀作2作品ずつ、合計6作品を選んでいただきました。そして同年10月2日に、6名の最優秀作者、選考にあたった三先生をおよびして、「飯坂のうた 記念碑 建立セレモニー」が挙行されました。

 パルセいいざかのポケットパークでご覧になれます。記念碑の書は飯坂在住の斉藤芳龍先生、芭蕉とサルビアのイラストは八木沼笙子先生にお願いいたしました。

「飯坂のうた」

笈も太刀も五月にかざれ帋幟(おいもたちも さつきにかざれ かみのぼり)
                 元禄二年 江戸 松尾 芭蕉

●短歌の部●

遠き世の芭蕉も浴みしさばこ湯の湯けむり匂ふここぞふるさと
                     福島市 佐藤 正喜

花水坂・ほとけ坂とよ名もゆかし湯の香漂うここは飯坂
                     福島市 小林千恵子

●俳句の部●

摺上の夕虹橋に鞄置く           福島市 清野三枝子

柄の先を飯坂に垂れ寒北斗         福島市 今野以美子

●川柳の部●

いいざかの四季へこらんしょまわらんしょ いわき市 江尻 麦秋

サルビアにそよ吹く風も湯の香り      柏崎市 横村 華乱

選評と、選者の先生方の「飯坂のうた」

■短歌の部■ 波汐 國芳先生

   さるびあのくれないもゆるをふちとして新世紀まで君とゆく道

 多くの人達が短歌という器を愛して、飯坂温泉を魂の原点に据えたことは何よりも得難い収穫であったと思う。芭蕉、晶子、子規、それに加えて現代の短歌愛好者が飯坂の町とかかわりを深めたことになるからである。一方、結社等で勉強している人達の応募が思ったよりも、少なかったのは少し淋しい気もした。
 千三百年の歴史を持つ短歌の心が庶民の中に未だ息づいていることに触れながら、熱く楽しかった。

■俳句の部■ 藤村多加夫先生

   飯坂の暁紅にありつづれさせ

 題を出されると、その題の事のみが胸にあふれてしまって、四圍周辺に作者視線がなんとしても広がってゆかない。結局は「題」の説明に終始せざるを得なくなる。さらに、俳句は約束として「季語」を一句の中に配す。
 記念碑に彫って、後世にのこす俳句だけは、立派で見事で万人の鑑賞に永遠に堪え得る作品であらねばならない。この二句は、美と大自然をテーマにして飯坂を詠んだ。見事なものであった。

■川柳の部■ 佐藤 良子先生

   飯坂の明かりが好きな新世紀

 二ヶ月ごとに川柳投句の束がやってくる。そのつど今の飯坂から、未来の飯坂像をイメージさせる作品に囲まれ、選者冥利のひとときに浸った。
 飯坂の過去の栄光を引きずっている寂しさを詠んだ応募作は、飯坂の復活戦に賭けるファンの声として受け止めた。
 温泉は老若男女を通し癒しの場である。それを底流にした「私の飯坂観」が多色刷りの絵巻さながらに、選句の目を楽しませてくれた。